福利厚生から企業経営を考える
福利厚生には、大きく分けて法定福利厚生と法定外福利厚生の2つがあります。
企業がそれぞれ負担する費用や従業員が求める内容は、外部環境の変化に合わせて変わっていきます。
そこで本記事では、福利厚生の基礎やトレンド、導入・運用の考え方や方法について記載していきます。
近年、求職者や従業員が福利厚生を重視するようになってきたことから、福利厚生制度の導入や見直しを考えている経営者や人事・総務担当者の方も多いのではないでしょうか。
福利厚生とは
Welfare benefits
福利厚生とは、賃金などの労働条件とは別に、会社が社員とその家族の福祉向上と生活の安定のために行うさまざまな制度や施策のことをいいます。
福利厚生は、一定の費用を伴うものの、優れた労働力の確保と定着の促進、働く意欲の向上、職場の人間関係の安定、労使の信頼関係の形成などに対して効果があります。
そのため、福利厚生が充実することで、ライフスタイルの変化による離職を防ぎ、勤労意欲を向上させる効果が期待できます。
終身雇用が崩壊し、雇用が流動化して、転職が当たり前になりつつあり、より優秀な人材を確保するため企業同士の争いが激化しています。最近では、採用活動において給与面だけではなく、少しでも他社よりアピールできるポイントを作り出すため、福利厚生の充実は非常に大切になってきています。
そのため、企業が福利厚生を行うのは、従業員のモチベーションを高め、精神的・経済的に従業員の支援を行うことで離職を防ぎ、従業員のロイヤリティを上げることを目的としています。
そして、福利厚生には、法律で規定されている「法定福利」と、企業が独自に定めている「法定外福利」があります(図1)。
法定福利厚生
Statutory benefits
福利厚生のうち、「法定福利厚生」と呼ばれるものは、法律によって定められている以下のものを指します(表1)。
- 健康保険料の事業主負担分
- 介護保険料の事業主負担分
- 厚生年金保険料の事業主負担分
- 児童手当拠出金
- 雇用保険料の事業主負担分
- 労働者災害補償保険料(労災保険料)
これらは、一定の割合を会社が負担することが社会保険制度などそれぞれの法律によって義務付けられています。
大分類 | 中分類 | 種類 | 概要 | 費用負担 |
---|---|---|---|---|
法定福利 | 社会保険 | 健康保険 | 従業員とその家族が、仕事以外の理由で病気や怪我をした際や死亡した際などに保険の給付を受けられる制度 | 会社:従業員=5:5 |
介護保険 | 介護認定を受けた方が、いつでも介護サービスを受けられるために給付金を提供する保険制度 | 会社:従業員=5:5 | ||
厚生年金 | 従業員の老後(65歳以上)に、国民年金に上乗せされる形で支払われる年金のための保険制度 | 会社:従業員=5:5 | ||
こども・子育て拠出金 (児童手当拠出金) | 15歳未満の子供がいる家庭に給付金を支給する児童手当をはじめ、子育て支援事業の資金としても使われる | 会社:従業員=10:0 | ||
労働保険 | 雇用保険 | 労働者が失業して所得がなくなった場合に、生活の安定や再就職促進を図るために失業給付などを支給する保険 | 会社:従業員=2/3:1/3 | |
労災保険 | 仕事中や通勤中、帰宅中に怪我をしたり病気になったりした際の補償を行う保険 | 会社:従業員=10:0 |
法定外福利厚生
Non-statutory welfare benefits
「法定外福利厚生」は、法律に定められた法定福利厚生とは異なり、企業が独自で任意に定める福利厚生を指します。
表2のように様々な福利厚生が存在します。
大きく10種類に分類したものが以下になります。
- 通勤・住宅関連
- 健康・医療関連
- 育児・介護支援関連
- 体育・レクリエーション関連
- 慶弔・災害関連
- 財産形成関連
- 職場環境関連
- 業務関連
- 自己啓発関連
- 休暇関連
大分類 | 種類 | 概要 |
---|---|---|
法定外福利 | 通勤・住宅関連 | 通勤にかかる交通費や家賃やローンなど住宅にかかる費用の全額または一部を会社が負担してくれる制度 |
健康・医療関連 | 健康診断や人間ドッグにかかる費用などを負担してくれる福利厚生 | |
育児・介護支援関連 | 託児施設やベビーシッターを雇うのにかかると費用などを負担してくれる福利厚生 | |
体育・レクリエーション関連 | 社員旅行や会社主催の運動会、野球大会やボーリング大会、工場見学やスポーツ観戦などの福利厚生 | |
慶弔・災害関連 | 従業員の結婚や出産などに対して弔意見舞金として給付があったり、従業員はもちろん身内の不幸などにたいしても弔意見舞金などが支給される福利厚生 | |
財産形成関連 | 社内での預金制度や会社の株を社員に持たせる「持ち株制度」などの福利厚生 | |
職場環境関連 | 従業員へ携帯電話やスマホなどの支給、社員食堂などの福利厚生 | |
業務関連 | 業務に必要な知識を得るための書籍の購入費用を負担したり、資格取得のための試験費用を負担する福利厚生 | |
自己啓発関連 | 業務に直結しない自己啓発に対しても補助をおこなう種類の福利厚生。交流会・講演・セミナーへの参加費用の負担など | |
休暇関連 | 育児休暇などとは別に自分の誕生日や子供の誕生日が休みになるなどの福利厚生 |
法定外福利厚生は企業によって様々であり、自社で提供するか、外部アウトソーシングサービスを利用しています。
一般的には潤沢な大企業のほうが充実した福利厚生が用意されていますが、近年では、経費削減のため内容の見直しや、福利厚生サービスを専門にする企業にアウトソースする企業が増えています。
それは、手間暇がかからず、従業員のニーズに素早く応えることができるからだと考えられます。
福利厚生費の調査結果
Welfare expense survey results
(一社)日本経済団体連合会は、今後の福利厚生を含む人事・労務管理の運営に資することを目的として、福利厚生費の実態を把握できるように「2019年度 福利厚生費調査結果報告」を公表しています。
福利厚生費の構成割合
福利厚生費の割合は、法定福利費が約8割を占めています。
2019年度の企業の福利厚生費は、全産業平均で従業員1人1ヵ月当たり108,517円となり、このうち、法定福利費は84,392円(77.8%)、法定外福利費は24,125円(22.2%)となっています。
福利厚生費(法定内福利費・法定外福利費)の推移
法定福利費は2003年度に7万円台を超え、13年度に8万円台を超えました。
法定福利費の対現金給与総額比率は一貫して上昇傾向にある一方で、法定外福利費は抑制傾向にとなっています。
法定福利厚生費が年々大きくなっている理由としては、社会保険料の増加、雇用保険料の引き上げなど保険料の負担割合の変更や料率の改定などが挙げられます。
そして、中小・零細企業を含んだ調査であるため、大企業層以上に、法定福利費の上昇が法定外福利費を厳しく抑圧している可能性も考えられます。
法定外福利費
法定福利費は、企業が独自に選定し費用を決めることができるため、自由度が高く、経営的な取組みの対象として検討することができます。
そのため、ここでは2019年度における法定外福利費の構成割合を項目別に詳しくみていきます。
項目別の内訳は以下となります。
- 住宅関連 11,639円(48.2%)
- 医療・健康 3,187円(13.2%)
- ライフサポート 5,505円(22.8%)
- 慶弔関係 514円(2.2%)
- 文化・体育・レクリエーション 2,069円(8.6%)
- 共済会 272円(1.1%)
- 福利厚生代行サービス費 309円(1.3%)
- その他 629円(2.6%)
法定外福利費の項目別動向
次に、法定外福利費の推移を項目別にみていきます。
住宅関連費用の推移
2000年度以降、減少に転じ、抑制傾向が続いています。
医療・健康費用の推移
「医療・保健衛生施設運営」「 ヘルスケアサポート」ともに近年、増加傾向がみられます。
ライフサポート費用の推移
「育児関連」のみ増加傾向となっており、「育児関連」以外は減少、もしくは横ばいの傾向です。
文化・体育・レクリエーション費用の推移
「施設・運営」は 1996年以降減少傾向にあり、他方「活動への補助」は上昇傾向にある。11年度に初めて「活動への補助」が「施設・運営」を上回っています。
福利厚生を経営視点で取り入れる
Welfare benefits from a management perspective
福利厚生制度を企業内に取り入れて根付かせるためには、基本的なあり方や方向性となる「理念」、そして企業内・企業と従業員との関係性の中で発揮されるべき「機能」、そして企業における「効果」など、基本的な枠組みを改めて確認しておく必要があります。
福利厚生に投資をおこなうことで経営的な効果があり、その効果が確認されなければ、福利厚生は単なるコストとなってしまいます。そのため、福利厚生は本来の投資効果が求められています。
それは、優秀な人材に対する吸引力・定着力などであり、最終的には生産性の維持・向上、そして企業の競争優位となるべき効果です。
また、福利厚生の特色ともいえますが、経営的効果だけではなく、従業員の個人生活、家計に対する生活的な効果があることも重要です。それは、家計、家族関係、身体的健康、メンタル面での健康、教育、介護、退職後の生活設計など従業員の現在から未来への様々なリスクに対して負荷を軽減することです。
ただし、福利厚生制度の人的資源への見返りをリターンと考えている投資と、社会的責任責任や従業員へのメッセージが福祉や平等である時、投資と福祉・平等とは成功の定義が異なります。
投資は、合理的な基準でより多くのリターンを得るのが目的で、福祉・平等は弱者を受け入れ全員の救済を図ろうとします。
そのため、この二つの考え方がひとつの制度運営において共存することは難しく、無理に共存させようとすれば効率性が損なわれ、矛盾や対立、そして結果として非効率性やムダを生み出すと考えられます。
このように、福利厚生が、賃金・報酬制度とは特性が異なるため、業界や企業においてユニークで独自の有効性を発揮する可能性をもたらすことが考えられますが、同時に制度設計やその編成、管理・運営などマネジメント上の難しさが存在することも意味しています。
福利厚生の導入・運用について
About introduction and operation
ご紹介してきたように、様々な福利厚生がありますが、企業の課題解決において法定外福利厚生を考える場合、大きく分けて自社で企画運営していく方法と、外部の専門企業(アウトソーサー)に委託する方法があります(図2)。
自社で企画・運用していこうとすると、当初想定していた以上の費用や人手が必要となる場合がほとんどで、担当部署の負担もとても大きくなってしまい、本来の業務に支障が出てしまうといったことも考えられます。
そのため、福利厚生はアウトソーシングすることが主流となっています。
福利厚生のアウトソーシング
福利厚生のアウトソーシングとは、企業の福利厚生サービスを自社のみで企画運営するのではなく、外部の専門企業(アウトソーサー)に委託する運営方法です。
福利厚生のアウトソーシングサービスは、「専業福利厚生」と「パッケージサービス」「カフェテリアプラン」の3つに大別されます。
「カフェテリアプラン」「パッケージプラン」は会員制サービスの形式となっています。
➀専業福利厚生
専業福利厚生とは、福利厚生のサービスを専業で展開している会社に外注すること。
専門領域に特化した専業の福利厚生サービスのために、質の高い福利厚生を提供することができます。
出張施術(マッサージ・はりきゅう)
企業・法人のオフィスに弊社スタッフ(有国家資格者)が出張訪問し、社内で従業員への「施術(マッサージ・はりきゅう・整体)」をおこなうことで、体調不良・疲労・ストレスを解消し、ココロとカラダのもうひと頑張りをサポートします!
➁カフェテリアプラン(選択型福利厚生制度)
カフェテリアプランとは、企業が育児休暇や持株会奨励金、資格取得補助に旅行補助など、多彩な福利厚生プランを用意して、自分で好きなものをセレクトすることができる制度です。
各自がポイント数に応じて、必要な福利厚生を選べるので無駄がなく、恩恵を受けることができない人がいなくなります。
カフェテリアプランを導入するメリットは、ポイントに上限を設けることで、福利厚生費を確定させることができる点です。
また、育児休暇などは対象者が限られてしまいますが、カフェテリアプランを活用することで、一人ひとりの従業員に合った平等な福利厚生を提供することができます。
➂パッケージプラン
パッケージプランとは、あらゆる種類の福利厚生サービスを定額で利用できるプランです。従業員は自分が利用したいサービスや施設などを選択し、何度でも会員価格で利用することができます。
福利厚生サービスの利用率が高い企業や、幅広い福利厚生サービスを利用したい場合などに適しています。
サービスの利用企業は、一般的に「従業員一人当たりの金額×従業員数」を費用としてアウトソーサーに支払います。
企業の経営課題に合わせて選択する
多くの企業が大手の福利厚生アウトソーシングの➁カフェテリアプラン(選択型福利厚生制度)や➂(パッケージプラン)を利用しています。
それは、企業の運用担当者の負担軽減や従業員の用途に合わせて多くのものから選択できて便利なためです。
しかし、多くの企業が同様のサービスを導入していることから「当たり前」となり、企業は自社課題に対しての適切な選択を放棄し、従業員は企業から自分自身に提供されている感覚が薄れているのではないだろうか。
また、「結婚式の引き出物カタログ」のように、多くを選べるということは、迷いや決断をするというストレスを従業員に与えてしまい(選択のパラドックス)、多くが権利を損失したくないという心理から(損失回避バイアス)特段必要のない無意味な消費となっていないだろうか。
このような状況の中では、明確に企業(または事業単位)が考える経営課題につながる福利厚生施策を従業員が選択し、効果としてあらわれているかは疑問を感じます。
もし、自社の解決したい課題が明確で同様の費用をかけるなら、選択を従業員に「丸投げ」せずに➀の専業福利厚生を実施し、従業員に見える形として企業内で提供することは、「企業から従業員に対してのメッセージ」となります。
加えて、経営課題解決として従業員との関係性構築などを考えた場合の費用対効果で、大きな差が生まれます。
最後に
Lastly
福利厚生は、近年注目されている健康経営とともに従業員への投資として新たに見直されています。
そのため、自社の経営課題に合った福利厚生を導入・充実させましょう。
本記事の内容が参考になれば幸いです。
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