職場における「エコノミークラス症候群」の予防・対策

職場における「エコノミークラス症候群」の予防・対策

エコノミークラス症候群(肺塞栓症/深部静脈血栓症)という言葉を一度は耳にしたことはありませんか?

このエコノミークラス症候群は、飛行機の搭乗中に起こるイメージが強いかもしれませんが、デスクワークやドライバーなどの狭いところで座ったまま長時間過ごし、同じ姿勢を取りつづけ、足を動かすことが少なければ、どこでも発症する危険性があります。

エコノミークラス症候群とは?

「エコノミークラス症候群(肺塞栓症/深部静脈血栓症)」とは、長時間足を動かさずに同じ姿勢(デスクワーク・車の運転など)でいると、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。
その結果、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがあります。

飛行機の狭いエコノミークラスでの長時間の飛行により発症することが多かったことから、「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)と呼ばれています。

また、食事や水分を十分に取らない状態(脱水状態)や血管の壁の傷もその引き金となることが知られています。

引き起こす原因

足のふくらはぎは、心臓に次ぐ「第二の心臓」と言われ、足を動かしているときは、筋肉が伸び縮みすることで血管に圧力が加わり、心臓に戻る血液の流れを後押ししています(図1)。

ふくらはぎの筋肉を動かすことで足の血液が心臓へ戻る-第二の心臓
図1:足のふくらはぎの筋肉ポンプ作用(第二の心臓)

長時間座って足を下ろしたままの姿勢が長く続き、足を動かさないと、ポンプの働きが弱まってしまいます。

その結果、血行不良が起こり、太ももからふくらはぎの血管の深部にある静脈に血液がたまり、血のかたまり(血栓)ができやすくなります。

この血栓の一部が血流に乗って移動し、肺の血管(肺動脈)を詰まらせて肺塞栓などを誘発することで、肺で血液に酸素を受け取ることができなくなり、体に重篤な影響をもたらす恐れがあります(図2)。

尚、足の静脈に血栓ができる病気を「深部静脈血栓症」といい、その血栓がはがれて肺の血管をふさぐ病気を「肺塞栓症」と呼びます。

一般的にこれら2つの病気を合わせて「エコノミークラス症候群」と呼ばれることが多いです。

エコノミークラス症候群の原因-血栓により肺塞栓を誘発
図2:エコノミークラス症候群の原因

血のかたまりができる「血栓症」について

血栓症とは、なんらかの原因で血管の中に血のかたまり(血栓)ができ、それによって血管がつまってしまう病気です。

正常に血がとどかなくなった。部位あるいは臓器が壊れたり(壊死)、正常な機能が失われます。その部位によってさまざまな特徴的な症状が引き起こされます。

原因

健康な人の血管の中では血栓はできませんが、血液や血管、血流に異常があると血栓症を発症するおそれがあります。

予防法

血栓症の予防には、正しい食生活や運動、水分補給などで血液と血管、血液を正常に保つことが大事です。

エコノミークラス症候群と心筋梗塞・脳梗塞の違い

血のかたまり(血栓)ができて、血栓症の代表格である病気を分類して説明していきます(図3)。

血栓症は、動脈で血栓ができる動脈血栓症と、静脈で血栓ができる静脈血栓症に大きく分けられ、心筋梗塞・脳梗塞は動脈血栓症に、エコノミークラス症候群(肺塞栓症)は静脈血栓症に分類されます。

動脈とは、心臓から全身に向かって血液を送り出す血管、静脈は逆に全身から心臓へと血液を戻す血管です。

血栓が心臓の血管につまれば心筋梗塞脳の血管につまれば脳梗塞となります。

心筋梗塞は、心臓に栄養を送る血管(冠状動脈)が血栓によってつまり、心臓の筋肉が壊れてしまう病気です。また、脳梗塞は、脳に栄養を送る血管がつまって脳の一部が壊れてしまう病気なのです。

血栓症-動脈血栓症(心筋梗塞・脳梗塞)と静脈血栓症(肺塞栓症/エコノミークラス症候群)
図3:血栓症の分類「動脈血栓症(心筋梗塞・脳梗塞)と静脈血栓症(肺塞栓症/エコノミークラス症候群)」

引き起こしやすい状況

以下はエコノミークラス症候群は、緊張・不眠・不動・脱水の4つの状態が引き起こします。

オフィスでのデスクワークや長時間の会議などでもこのような状況が起こります。
例えば、仕事や会議に対する緊張や不眠があり、座りっぱなしでほとんど足を動かさず、空調管理されているため汗をかかず水分不足になることで血栓ができやすくなります。
また、長時間・長距離の運転による緊張状態に加えて、睡眠不足の日は要注意です。

以下は、主な注意すべき状況の例となります。

  • 同じ姿勢で座り続けて行なうデスクワークなどの仕事(テレワークも含む)
  • 長時間・長距離運転をするドライバー
  • 手術を受けた後や分娩後
  • ベッドで寝たきりとなる入院中
  • 車中泊
  • 災害時の避難所生活
  • バスや新幹線での長距離移動、飛行機
  • 劇場や映画館 など

エコノミークラス症候群になりやすい人

以下にあてはまる方は特に注意が必要です。

  1. 高齢者
  2. 足の静脈瘤がある
    ※40代以降の女性、長時間の立ち仕事をしてきた(主婦、工場、畑仕事、警備、教師、美容師、調理師、看護師、など)方に多い
  3. 足の手術を受けた
  4. 骨折やけがで動けなかった
  5. 悪性腫瘍(がん)がある
  6. 深部静脈血栓症、心筋梗塞、脳梗塞を起こしたことがある
  7. 肥満
  8. 避妊薬(ピル)を内服中
  9. 妊娠中または出産直後
  10. 生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症等)
  11. 喫煙者(二コチンにより血管が収縮され、血流が悪くなる)

足のむくみやだるさによる職場への影響

エコノミークラス症候群の詳細について触れていく前に、原因や初期症状である「足のむくみやだるさ」を感じている人の数、「足のむくみやだるさ」があることで職場における仕事のパフォーマンスに与える影響について触れていきます。

足のむくみやだるさの自覚症状

厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査では、病気・けがなどで自覚症状がある人の割合(有訴者率)で「足のむくみやだるさ」が、総数で18位(31.2)、男性20位(18.4)、女性7位(43.2)となっており、女性に多い傾向があります。

図1は男女それぞれの1~5位、表1は総数・男女それぞれの20位までを示しています。

自覚症状がある人の割合(有訴者率)-男女ともに腰痛が1位-肩こりが2位
図1:性別にみた有訴者率の上位5症状(2022年 国民生活基礎調査の概況 厚生労働省
表1:有訴者率(人口千対)「2022年 国民生活基礎調(厚生労働省)
総数男性女性
1位腰痛:102.1腰痛:91.6腰痛:111.9
2位肩こり:80.3肩こり:53.3肩こり:105.4
3位手足の関節が痛む:55.8頻尿(尿の出る回数が多い):45.6手足の関節が痛む:69.8
4位目のかすみ:43.4手足の関節が痛む:40.7目のかすみ:49.8
5位頻尿(尿の出る回数が多い):38.8鼻がつまる・鼻汁が出る:37.8頭痛:46.8
6位物を見づらい:36.8せきやたんが出る:36.8便秘:43.7
7位体がだるい:36.7目のかすみ:36.6足のむくみやだるさ:43.2
8位手足のしびれ:36かゆみ(湿疹・水虫など):35.4体がだるい:41.7
9位鼻がつまる・鼻汁が出る:35.9手足のしびれ:33.1物を見づらい:41.3
10位便秘:35.9聞こえにくい:33手足のしびれ:38.7
11位聞こえにくい:35.2物を見づらい:32もの忘れする:38.2
12位かゆみ(湿疹・水虫など):34.9体がだるい:31.3聞こえにくい:37.2
13位もの忘れする:33.5耳なりがする:29.3手足の動きが悪い:37.1
14位頭痛:33.2もの忘れする:28.4眠れない:35.2
15位せきやたんが出る:32.9便秘:27.5かゆみ(湿疹・水虫など):34.4
16位手足の動きが悪い:32手足の動きが悪い:26.6鼻がつまる・鼻汁が出る:34.1
17位耳なりがする:31.4眠れない:23.5耳なりがする:33.3
18位足のむくみやだるさ:31.2息切れ:20.5手足が冷える:32.6
19位眠れない:29.6頭痛:18.5頻尿(尿の出る回数が多い):32.4
20位手足が冷える:24.1足のむくみやだるさ:18.4せきやたんが出る:29.3

エコノミークラス症候群の症状

初期の症状は、主に太ももから下の足に、発赤、腫脹、痛み等の症状が出現します。足にできた血栓が肺に詰まると、胸痛、呼吸困難、失神等の症状が出現し、大変危険な状態になります(図4)。

血栓を足に起こした時と、肺に起こした時では、症状が異なるため、それぞれについて説明していきます。

➀足に血栓を起こした時(深部静脈血栓症)

足に血栓ができると、ふくらはぎや太ももが腫れたり、部分的な赤み、つっぱる感じ、だるさなどの症状が現れます。
また、足に痛みを伴うこともあります。

両足に症状がでることは少なく、特に片方の足だけに症状が現れた場合は、深部静脈血栓症の可能性があります。

詰まった血栓が小さかった場合は症状が軽かったり、ほとんど何も感じないことも少なくないので注意が必要です。

血栓のできやすい場所(深部静脈血栓症)とエコノミークラス症候群(肺塞栓症)
図4:血栓のできやすい場所(深部静脈血栓症)とエコノミークラス症候群(肺塞栓症)

血栓のできやすい場所と特徴

太もも付近にできる血栓は、足の血管を詰まらせ、主に片足に腫れや痛みが出ます。

ふくらはぎ付近にできる血栓は、血管を詰まらせず浮遊している場合があり、この状態では足の症状はほとんどないのですが、血栓が肺の血管に移動して詰まると、肺塞栓症の症状が突然生じます。

表1:血栓のできやすい場所(深部静脈血栓症)と特徴
場所特徴注意すべき人
腸骨静脈
(太もも上部)
症状は足の腫れなど妊婦や、子宮筋腫の患者
大腿静脈
(太もも)
症状は足の腫れなどカテーテル手術を受けた人
膝窩静脈~ヒラメ筋静脈
(ふくらはぎ周辺)
肺の血管が詰まるまで症状がでにくい長時間座ったままの旅行者や、災害時の車中泊者

➁肺に血栓を起こした時(肺塞栓症)

足の血栓が肺に到達し、肺の血管を塞ぐようになると、突然の胸の痛み、呼吸困難、歩行時の息切れなどの症状が現れます。

重症化すると、意識を失ったり命にかかわることもあります。

エコノミークラス症候群の症状-胸の痛み-突然の呼吸困難-歩行時の息切れ
図5:エコノミークラス症候群の症状

エコノミークラス症候群の治療方法

エコノミークラス症候群の疑いのある場合には、肺や足のコンピューター断層撮影法(CT)検査、心臓の超音波検査、血液検査を行い、詰まっている血管の場所や血栓の大きさ、症状の重さを判断します。

軽症の場合、血液を固まりにくくする薬(血液をさらさらにする)を使うのが基本で、注射と飲み薬があり、併用する場合もあります。

命に関わるような重い症状の場合には、血栓を溶かす注射を使ったり、外科手術で直接血栓を取り除いたりします。

血栓の状態や、患者の年齢、体力、他の病気の有無などで最適な方法を選びます。

エコノミークラス症候群の予防・対策

厚生労働省は「エコノミークラス症候群を予防するために心掛けると良いこと」を公表しています。

予防のためには、以下を心がけましょう。

  1. ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う
  2. 十分にこまめに水分を取る
  3. アルコールを控える。できれば禁煙する
  4. ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない
  5. かかとの上げ下ろし運動をしたり、ふくらはぎをもんだりする
  6. 眠るときは足を上げる
  7. その他:弾性ストッキングの着用(要医師の指示)
厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」

エコノミークラス症候群を予防するために特に大切なこととして、水分補給、運動、圧迫の3つについて説明していきます。

➀水分補給

血栓ができにくい状態を保つため、水分を十分に摂取することが大切です。

ただ、利尿作用のあるお茶やアルコール類は脱水症状を招く恐れがあり、逆効果となります。また、トイレに行く回数を減らすため、水分の摂取を控える人がいますが、これも発症の危険性を高める恐れがあります。

以下に気を付けて、適度な水分を取りましょう。

  1. 喉が渇いていなくても飲む
  2. 1時間に1回コップ半分くらいの水を飲む
  3. 利尿作用のあるコーヒー、紅茶などのカフェイン飲料やアルコール類は避ける

➁適度な運動

ふくらはぎの筋肉を伸び縮みすることで、脚の静脈の血行がよくなり、血栓ができにくくなります。
一般的に、狭い場所で足を動かさない姿勢を6時間以上保つと、血栓ができやすくなるとされています。

そのため、長時間同じ(特に車中等での窮屈な)姿勢でいないようにして、血流を促進するためにもこまめにトイレに立つなど意識し歩行したり、1時間に1回は足の運動をしましょう(図6)。

尚、他者によるマッサージ等は、エコノミークラス症候群の予防として有用ですが、エコノミークラス症候群を既に発症した方には下肢のマッサージは禁忌になります。それは、下肢の静脈にある血栓を移動させ、肺血栓塞栓症を誘発する可能性があるからです。

エコノミークラス症候群を予防する運動
図6:エコノミークラス症候群を予防する運動

出張施術(マッサージ・はりきゅう)

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➂圧迫療法

血液は体中を循環していますが、足の裏まで流れた血流は重力に逆らい再び上半身へと戻ります。

このとき、ふくらはぎが持つ筋肉ポンプ作用が血流を上方へ押し戻す役割を果たしますが、弾性ストッキングを着用することによって、血管に圧力をかけ、血液の流れを正常に戻し、足の静脈に血流が停滞するのを防ぐとともに血液が心臓に戻るのをサポートします。

弾性ストッキングは足首の部分の加圧力が強く、上方に行くにつれ圧が弱まるように編み込まれているため、足の血流を上方へ押し上げる効果があります。

弾性ストッキング着用後、ふくらはぎの筋ポンプ作用
図7:弾性ストッキング着用とふくらはぎの筋ポンプ作用

最後に

エコノミークラス症候群は、命にかかわることもある重大な病気ですが、正しい知識を持って対応すれば、予防することができます。

血栓は下肢にできやすいため、特にふくらはぎのむくみに注意して、今回取り上げた予防策を実践するようにしてください。

デスクワークやドライバーなどの職場のみならず、被災時においても、是非多くの方々が本記事の情報で予防・対策の一助となることを期待します。


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